映画部活動報告

月1くらいで開催される映画部の活動報告場所

第26回 映画部記録(2023/4/21)

『大怪獣のあとしまつ』(2022年・日本)

監督三木聡

脚本三木聡

キャスト:山田涼介
     土屋太鳳
     濱田岳

 

予告:

参加者
T.H、K.Y、K.S、小林、加藤

T.H

中途半端度:★★★★★
ダメな映画度:★★★★☆
だから勉強になる度:★★★★★★★★★★

期待は裏切られた

タイトル「大怪獣のあとしまつ」と予告の段階から、特撮でよく扱われる怪獣がもしリアルに現れて死んでしまったらどうなる? というリアリティショーなのかなと思わせる面はあった。

たとえば「タイタニック」は豪華客船がリアルに沈没するまでの極限状態をひとりひとりの思いに寄り添って描いた「人」の物語。「インディペンデンスデイ」は地球を守るための国を超えた戦いを「国」と「個人」の両方から見ていく。

大災害は、話の持っていき方によってはシリアスにもホラーにもコメディにもなる。でも、この映画はその比率というか狙いがほんとうに見えにくい。

ストーリーとしては、ある日日本に怪獣が現れて、軍を挙げて戦い、不思議な光によって怪獣が死んだ。その怪獣の死体の始末をつけるという意味では、想像上のリアルを解決する物語だ。権力が大きいところから、総理大臣、各省庁の大臣、その下の実働部隊の偉い人たち、さらに現場の人たちというヒエラルキーがそれぞれ登場する。

偉い人たちの決断が失敗し、現場が痛快に事態を解決する、みたいな話ならそれはそれでいい。「踊る大捜査線」とか「パトレイバー2」とかが典型的だろうか。

権力者たちのこっけいさを描くのならそれでもいい。大真面目に頑張った結果ミスばかりというのはチャップリンとかにも通じる王道。

また、戦隊ものとか特撮ものは、政府とか権力者の存在がほとんど描かれず、正義のヒーローが出てきて解決してしまう。ある意味子供たちに一番近しいのが、こういうヒーローでもある(大人の世界のことはわからないからね)。

じゃあこの映画は? というと、視聴後の感覚としては政府も省庁も個人も、なんかいろいろバタバタやって、その結果としてこういうあとしまつになった、というだけの話。誰の努力も特に報われず、足の引っ張り合いだけは描かれたものの、なんかもやっとしたまま終わったという感じだった。

面白さをどこに見出すかと言えば、やっぱり権力者の醜くておかしな行動とか発言なんだろうとは思う。でも、それぞれのキャラがそんなに説明もされないままで、どこにも感情移入ができなかった。実は総理が秘書と同性不倫してたとか、大臣同士がSMメイトだったとかみたいなとんでもない秘密があればそれはそれで笑えたが、単に醜い中年どもがオヤジギャグを言い合ってるだけで、本当に意図が見えない。

でも、多分面白いと思って作ったんだろうと思う。だから、脚本も監督も、まあ失敗作だったとしか思えない。

映画を面白くするにはどうしたらいいのか

ドキュメンタリーみたいに事実を描いたり、小説みたいに物語の結末がとんでもなく感動的、というストーリーなら、結末に向けて盛り上げていく演出をすればいいので簡単だ。

ただ、この映画は結末がアレなだけに、本来ならばそこに向けた伏線をもっと張っていって、「ラスト5分、あなたは裏切られる」みたいな謳い文句で煽ればよかっただけだった。

そうならなかったのは、ひとえに脚本のつまらなさだと思う。キャラもストーリーも、特にセリフまわしがなんかリアリティがなくて違和感ばかり感じた。偽物感というか、ほんとに困ってる人がどこにいるのかも描かれないし。漁業組合が漁ができずにストを起こしてるシーンとか、異臭で死亡した人が出てきて社会問題化するとか、押井守なら絶対描くだろう。

そういう小さな出来事の積み重ねがないまま、会議室と現場と怪獣のシーンしかないから、どこまでも「リアリティ」がない。そこが最大の問題だったように思う。

で、見終わって友人たちとそういうことを話したりしながら、この映画のどこをどう変えたら面白くなるか、という勉強の題材としてはとてもいい映画なのかもしれないと思った。

撮影の技法とか画角とかはとても落ち着いていて悪くはないと思う(CGは別)。つまり、やはり役者の演技、セリフと、脚本が問題なのだと思うのだ。それをみんなで議論して、俺ならこう撮る、という改善を試みるには最適な映画なんじゃないだろうか。

俳優は豪華だし、セットなどにもお金がかかっている様子はある。だから、これをもし今後生かすのであれば、まさに映画として作ってしまったこの駄作の「あとしまつ」を考えるきっかけにする、というのが、これから日本映画を意欲を持って撮りたいと考えている若者とかの役に立つんじゃないかと思ったりする。

小林

笑える度:★☆☆☆☆
大人の事情度:★★★★★

ルールとは?

映画には観客と共有するルールが必要だと思っている。ルールというものは現実ではない。その映画の中のルールである。

ミッションインポッシブルならトムクルーズは走っている電車の上に乗ってアクションできるし、崖から落ちても生きている。最近のコナンもそうだ(笑)。この映画はそういうルールの中で作られた世界だということが、映画の序盤では特に重要である。

これはあるジャンルのお約束みたいなものでもある。アクション映画もそうだし、最近だと主人公が見ている側と話せるようなメタフィクションの作品もある。それも序盤でそういう映画なんですよっていうことが滲み出てくると良い。逆にこのルールをコントロールして、見ている側をコントロールしている映画もある。

「キャビン」というホラー映画は、序盤は典型的な怪しい屋敷で事件が起こる80年代ホラーで始まりながら、実はメタフィクションの世界だったというところでルールをコントロールしたオチで、観ている側を楽しませている。

その流れで見た時に「大怪獣のあとしまつ」はよくルールの置き所が分からない。官邸のシーンはベテラン役者の政治批判のような会話劇でもあるし、一方で主人公側の三角関係のような謎の真面目なドラマもあり、よく分からない。怪獣もどう見ても「ゴジラ」だし、最後のオチも「ウルトラマン」なのだが、ここもパロディにするなら、もっと特撮あるあるでギャクで攻めても良いはずだ。主人公の性格がよく分からないのはウルトラマンのハヤタ隊員のパクリだと思うのだが、やりすぎ感が無さすぎて、笑うところなのかよく分からない。

全体を同じトーンで演出するべきなのだが、そのチグハグさが全体的にどう笑って良いのか分からなくなっているところだと思う。大人の事情を感じさせるような部分もあるが、そこは守るべき映画の中のルールだし、ルールが守れていない映画は本当にメチャクチャになってしまっている典型的な作品のような気がする

加藤

ちぐはぐ度:★★★★☆
笑いどころがわからない度:★★★★★
もう一度観たい度:☆☆☆☆☆

お金払わなくてよかった♡

この一言につきる。加速していく不景気に、鑑賞料金の値上げに……ただでさえ、映画を楽しむには金がかかる日本。つまらない映画に存在意義がないとは言わないが、それは収穫があったものに限る。Z級映画には、Z級映画にしかない魅力がある。低クオリティでも、なにか引っかかるものがあれば、それは立派な作品なのだ。

さて、本作。ないよね。何もないんだよ、引っかかるところが。ムカつきと虚無感をフックと捉えられればいいけれど、一応この作品はコメディに分類されるはず。笑えもしないコメディなど、金を出して観る必要はないと思う。

サブスクがある時代に生きていてよかった♡ 余計なお金を払わなくてよかった♡

この映画の感想はこれに尽きる。

真面目に考えてみる

この映画が不評だったのは、なにより“ガッカリ感”が強かったからだと思う。つまり、プロモーションをしかけた時点で負けだった。センスのねープロモーションをしたのが敗因だってことだよ。

豪華キャストどーーん! 壮大な設定どーーーん! 幼いころから特撮に触れてきた日本人、めちゃくちゃ気になる要素どーーーーん!

予告では結構真面目な特撮作品が来るよ~~という匂わせが余計だった。ふたを開けてみれば、つまらん下ネタとギャグにどうでもいい三角関係。臨場感も緊張感もないキスシーン見て、どうしろって?

私がこれを面白そうだと劇場に足を運んだ人間なら、ガッカリというか絶望すると思う。睡眠不足で来ればよかった~! 意識失えるもん~~!ってなる。

もっと、某大ヒット特撮のパロ的くだらなさ満載の映画やるよ~~~みたいな宣伝されれば、ここまで「クソ」みたいな烙印おされなかったんだろうなぁと思うと、プロモーションの大切さがわかる。最初から超えるべきハードルが高かったから、失敗というイメージが強く残った。つまらないだろうと思って見ていれば、駄作として愛されたかもしれないのに。

作品の温度差がえぐい

大臣たちがどうでもいい話し合いをしているシーンと、主人公・アラタたちを取り巻くシーンの温度差がえげつない。演技の差もえげつない。

何が言いたいかというと、コメディは下手くそは出来ないってことだよ!!!!! テンポが悪すぎて、独りでも下手くそがいると全部崩れるんだよ!

そこを鑑みると、大臣たちの会話のテンポ(だけ)はとてもいい。みんなで見てたら、ほどよくツッコめそうなテンポで気持ちよく会話が進む。が、メイン3人の元カノ問題やらの話題になると、ひたすらつまらん“THE 演技”みたいなものを見せられて、シンプルに萎える。そういう作品ならそれでいいと思うけど、場面ごとに足並みが揃ってないと作品に歪みがうまれる。それによって、この作品はシュールさを失い、“無個性”になっている。結局はバランスや、突き抜け具合が大切なのだ。

もう一度観ようと思うことはもちろんないし、どのシーンが印象的だったと言われても困るくらいには記憶がない。ひたすらに、無味乾燥な映画だった。日本ではめちゃくちゃ面白いコメディ映画、作れる技量がもはやないのかもしれないという絶望だけが残った。

 

※画像はお借りしています。