映画部活動報告

月1くらいで開催される映画部の活動報告場所

第13回 映画部記録(2021/9/17実施)

『ビューティーインサイド』(2015年・韓国)

公式サイトhttps://gaga.ne.jp/beautyinside/index.html

監督:ペク・ジョンヨル

出演ハン・ヒョジュ
   ユ・ヨンソク 他

予告


参加者
T.H、小林、O.K、加藤

T.H

ヒロインのかわいさ ★★★★★
予想を裏切る度   ★★
おすすめ度     ★★★★

爽快感や恐怖感よりも、幸福感や安心感が欲しいと自分が希望してO.Kさんや加藤さんに選んでいただいた「ビューティーインサイド」。韓国ドラマは突拍子もないことが予定調和のぶっ飛びストーリーですが、映画はなぜが落ち着いてますよね。

恋愛ものかと思いきや、思いっきりSFで、ある意味ホラーでした。

容姿を選べない人生ではなく、容姿が勝手に変わる人生

主人公は、朝起きると「別の人間」になってしまう病気というか体質の人。映画は、一夜の情事のあとでこっそりベッドから抜け出すところから始まります。これだけ聞いたらさぞかしおもしろおかしい人生だろうと思えますが、起きたときの姿が太ったおじさん。多分みられたら昨夜知り合った女性は悲鳴を上げ、警察を呼ぶでしょう。

ビューティーインサイド - 映画.com

毎回まったく違う姿になるという突拍子もない人生をリアルに感じさせるのは、部屋に無数にある服や靴など。そうか、いろいろ用意しておかないといけないんだ、他にはどんなものが必要だろう、よくある性転換モノに照らして変な想像もさせてくれます。

主人公が課されているのは、毎日別人を演じることを一生強いられる人生。本物の自分は自分の心だけ。それだって何が本物かを証明する物理的なものはありません。

イノセンス」で姿形のない大佐の存在を誰が証明できるのかが問われたのとはちょっと違いますが、姿形が変わり続ける人間の心ってどんなものなんだろう? なんて想像もしてしまいました。

いいも悪いもひっくるめた「入れ替わり系ドラマ」のひどい版

そんなときにひとりの女性に恋をしてしまいます。当然、とびきりいい姿になるのを待って声をかけ、デートに誘う。ちょっとだけうらやましくもなったりします。

ここで、「朝起きるとってことは、今のイケメンな姿を維持するためには……」ということを観客に想像させます。無茶なことだけどどうにかしたい。観客も一緒に考えて、「〜〜すればいいんじゃね?」と思っていると、そのとおりに行動する。

でも、どれだけ無茶をしようと、多分2度と彼女が知るその姿にはなれないことも、観客にもわかりはじめます。

このあたりで、「ああ、この人の人生きついな」と、じわじわ実生活を想像して怖くなり始めていく。

たいていの物語はそんな感じで、最初は能天気に過ごしていたものが、だんだんと世界のほころびを感じ、自分が嫌が応にも世界を救う目的を背負わされる。使命感を感じるか逃げようとするかは作品の方向性によりますが。

でもこの映画の主人公は、「単に生きたいだけ」です。何者にも変わりたくない主人公があえぐ姿を見せつけられる。苦しい。

そして、自然と観客が自分と主人公を投影させて、「自分だったらどうだろうなぁ」とか考え始める。多分エロい妄想とかもあるでしょうよ(まあ、心の中では何を考えようが自由ですから)。

そんなこんなを経て思考がぐっちゃぐちゃになったところに、多くの観客にとって想定以上であろう爆弾が、目に見えて空から降ってくるんじゃなく、不意打ちのように地面の下でいきなり爆発します。

人は人のどこに惹かれ、何に恋をするのか

クライマックスは、告白してからの彼女との関係が描かれていきます。別の人間に変わる彼の視点から描かれてきたものを、彼女側に立って考えたらどうなんだろうということを、彼女の体調の変化や気持ちを聞きながらで、徐々に考えさせられていきました。

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そしてここから、「彼が別の人間になる体質を克服して幸せになるための話」だったはずが、「別の人間になる体質の人と付き合う女性の不安と恐怖を描く話」に自然とシフトしていく。不幸な生い立ちの彼の話ではなく、彼に知り合ったことでどうしていいかわからなくなった不幸な彼女の話へ。

この時点で、彼と彼女、どちらに感情移入しているかによって、見方が変わるみたいです。自分はずっと彼の側に立って考えていたけど、一緒に見たO.Kさん、加藤さんは彼女視点に立っていたようで、見方・感じ方が全然違いました。

だからこそ、この映画をカップルで見終わった時の視点のズレ、感じ方のズレがものすごく明確になる。面白いかもしれないけど、大きく違ったときに「あれ、こいつこんなこと考えるやつだったっけ?」「え?この人そんなふうに考える人だったの?」と、関係を二分しかねない気もする。

その意味で、この映画はやっぱりホラー映画かもしれません(笑)。

あ、ホラー要素で言うと、当然誰もが考える「姿形が変わる瞬間ってどうなるんだろう?」という疑問。映画でどんなふうに描かれるか、ここもホラーっぽいです。

さわやかじゃない恋愛映画ってきつい

触れてこなかった要素でいうと、主人公の彼女がものすごくかわいい。初めて知った女優さんですが、アジア系の顔の中ではほんとにトップクラスに。吹き替えの声が坂本真綾というところも手伝ってるのかな。

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また、日韓がまだ仲がよかった時代らしく、随所にわざとらしい日本の商品とかが出てきます。今見るとなんか目立ちすぎる感じがするので逆効果っぽかったですね。

俳優さんはあまり知らないけど、上野樹里もいいところで出てきます。言葉が通じないはずなのにわかっちゃうのはファンタジーだしまあ……。

それと、全体的に映像がとてもおしゃれで、彩度が抑えられていて、淡い感じの光の入れ方がきれいでした。イス工房の夜のシーンとか、彼女の家に歩いて行く夜道とか、最後のシーンの工房とか。

全体的にどぎつい色味がまったくなく、すごくナチュラルだったのもなんか韓国らしい感じがしました。この辺は勝手なイメージですけど。

総評・「これはあくまで架空のお話」

恋愛映画って、多かれ少なかれ恋愛の経験とかテクニックとかを学べる要素があると思うんですが、実は実際の恋愛にはまったく役に立たない要素しかない映画です。

あまりにもファンタジーすぎて、感情移入はできても終わった後に「まあ、あんなことないしなぁ」「自分がもしこんなことあったら……ってあるわけないわ」とさっぱり忘れてしまいそう。

その意味では、あまり後を引かずにみられる映画かなとも思いました。

ただ、自分のことで精一杯な時、大切な人のことをどれだけ考えられるか、という点においては、ものすごく考えさせられる映画でした。

仕事が大変だったり趣味に没頭していたりして、パートナーをほったらかしにしているその瞬間、相手が何を考えているかなんて、言葉に出されなければ読み取れないことは多いです。そういう喧嘩もたくさんあるしね。

でも、考えてもわからないような悩み、自分には伝えられないような悩みもあるかもしれない。それは男女の差とかもあるし、いってしまうことで関係が壊れたり離れてしまうんじゃないかということもある。

そういう思いをどうやって伝えよう、どんなふうに解消しよう……と疑似的に考える練習にはなるかもしれません。

まあ、あまり深く考えずに、物語の展開と顛末をただ見届けるだけ、という見方でもまったく問題ないです。ただし、どうせ深く考えたってこんなの現実にありえないんだから、と割り切れるなら、見ている間だけでもどっぷり浸かってみるのもいいのかな。み終わった瞬間はつらいけど、あまり長期間精神にくることはないと思います。


と、ここまで思考を巡らせてくると、タイトルの「美しさは心に宿る」はなんだかしっくりくるようなこないような、という気もしてきたので、後は見た方が自由に考えてみてください。

小林

この後、男女がどうなるかを是非続編で描いて欲しい。

オープニングうまい度 ★★★★★
続きが気になる度 ★★★★★

毎日姿が変わる男性がどう女性と付き合っていくか、女性の側もどう男性と付き合っていくか。
一人の友達でも恋人でも良いが、誰かと一緒にいることで生じる問題を、SF(ファンタジー)を使って描いている。

冒頭が上手い。姿が変わる男性がワンナイトでベットから起き上がるシーンから始まる。前夜のイケメンからおっさんに変わっていてユーモラスだし、薄い関係性の中でしか生きられない男性の寂しさも描いている。設定だけでは描いているのではなく、誰かと関係を続けていくというテーマを匂わせているのも素晴らしい(一番遠い状況から)。

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物語は男性の父親も同じく姿が変わる人間だったことで、母親を置いて蒸発してしまったこと。女性の父親が亡き妻「一緒に年を取りたかった」ということを聞き、一度は別れてしまった男女がもう一度出会うところでハッピーエンドである。

だが気になるのはこの後だ。

一緒に暮らしていく二人には今後もいろんな障害があるだろう。

毎日、違う父親がいる家庭。子供は父親をどう認識するのだろう……想像すると色んな妄想が産まれてくる。

是非、今後の二人の関係性を通して、さらに新しい物語、素晴らしい感動をもたらす映画を期待したい。

O.K

愛とは何?考えちゃう度:★★★★★
もう一度見たい度:★★★★☆(人生で愛に迷ったら見たい)

目覚めるたびに外見・性別など姿が変わってしまう男性が恋をする、結構ファンタジーなお話。

演出のおかげでこのあたりは意外とすんなり受け入れられるので安心してください。

何回見ても毎回違った視点や自分の気持ちに気づけるのもこの映画のいいところだと思います。

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今回私は“結婚した自分”として見ていたのですが、自分もこんな風に人を好きになれる?「好き」「愛する」とはどういうことなのか……?(迷宮)

……と、答えのない問いをぐるぐる考えてしまいました。
いつか答えが見つけられたらいいなあ。

1年に1回見たくなるくらいにはこの映画が好きで、これからも人生の節目で見たくなるのだと思います。

「愛」とは何か、本質的な問いを投げかけてくれる映画です。

 

加藤

少し迷ったときに観たい度:★★★★★
名作度:★★★★★
もう一度観たい度:★★★★★

キム・ウジンは、性別・年齢・人種に関係なく毎日違う容姿に変化してしまう。

だから、長く付き合う友だちなんて作れないし、恋人なんてもってのほか。だって、明日の自分は男なのか、女なのか、それとも子どもになるのかも分からないのだから。

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好きな人の姿が毎日変わるとしたら、私はその人を好きでい続けることができるのか。
観るたびに自問しているけれど、私はいつも「自信がないなぁ」と思ってしまう。

外見は印象の一つだ。会うたびに変わっていくとしたら、やはり戸惑ってしまうに違いない。

ハン・ヒョジュ演じるイスが、徐々に疲弊していく理由がわかる。音楽の趣味もあって、自分のことを好きでいてくれて、性格も大好き。
こんなに彼は愛してくれているのに、顔を合わせるたびに戸惑ってしまう自分がいてきっと申し訳ない気持ちになるのだろう。

それに、ありもしない噂だってたてられる。

「イスはいつも違う男と歩いている。誰が本命の彼氏なの? 」

放っておけばいいし、気にしなければいい。そんなことは分かっているけれど、誰かとのつながりを断つことができない世界で、“気にしないこと”がどれほど難しいか。
ごまかすように笑って、その場から立ち去ろうとするイスの姿が切ない。

「好きなのに」と「好きだから」が積み重なると、こんなにも身の置き場がなくなってしまう。

誰かを好きになるって、どういうこと?
外見だけが大事なの?

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日々、姿を変えていくウジンと、彼の恋人イスを通して、私たちは問いかけられる。
でも、結局何も答えられることなんてない。ささやかだけど、大きな決断をした2人に泣けてしまうのだ。

 

※2021/9公開。2022/7/10再編集。動画・画像はお借りしています。